相互作用タンパク質同定の為の最新技術情報

相互作用タンパク質同定の為の最新技術情報

これまでに解析した多数のタンパク質相互作用から、以下に相互作用タンパク質の同定のための免疫沈降法及びGSTプルダウン法について重要な技術と注意をするべきポイントを述べます。


1 免疫沈降法:一般に注意すべき点

      相互作用タンパク質の解析で一般的に行われる方法として免疫沈降法がありますが、十分な結果を出すためには重要な情報があります。

(1)抗体の選択

自作の抗体の場合は直接結果を確かめることになりますが、各メーカーの抗体を購入する場合は、あらかじめメーカーのアプリケイションで免疫沈降ができることを確認してください。また、各メーカーのホームページに推奨する免疫沈降のマニュアルがありますので参考にしてください。このことは実験の成功のために最も重要なことです。免疫沈降のできない抗体では何も得られないのです。

(2)タンパク質抽出バッファーの選択

免疫沈降する場合細胞や臓器からタンパク質を抽出することになりますが、この時使用するタンパク質抽出バッファーの選択が免疫沈降に大きく影響することがあります。例えば膜タンパク質の場合は選択するdetergentによりタンパク質の回収率が異なりますので免疫沈降の結果に大きく影響します。目的のタンパク質が十分抽出されるバッファーを選ぶことが大切です。

(3)溶出の工夫

抗体をProtein AやProtein Gのmagnet beadsに結合させた場合、washした後直接SDS-PASE用のサンプルバッファーで可溶化して電気泳動することもできますが、溶出される抗体自身が解析の邪魔になります。そこでwashした後、beadsを1.2M NaClを含む50mMHEPES ( pH7.2)のextraction bufferで回収し、限外遠心濃縮器を使い脱塩・濃縮を行うと結合タンパク質だけをきれいに解析することができます(残ったbeadsに抗体とその抗原タンパク質が残っています)。また、タカラの免疫沈降キット( Capturem IP & Co-IP Kit )はカラムを使って免疫沈降物をトラップするのですが、抗体を除いて抗原タンパク質・結合タンパク質をきれいに溶出できるので大変優れています。

 

2 免疫沈降法(具体的なプロトコール)

 ここでは、FLAGタグを付けたタンパク質X の安定発現細胞株を用いた実験方法をご紹介します。


(1)細胞の破砕と分画

1) 回収した細胞(FLAGタグ付きXを発現させた細胞、及び コントロール用にFLAGタグのみを発現させた細胞、15 cm dish、各2-4枚)を SHE緩衝液(*a)で一度洗浄し、遠心してペレットにします。
*a SHE緩衝液組成 10 mM HEPES (pH7.5) / 210 mM mannitol, 70 mM sucrose, 1 mM EDTA, 1 mM EGTA, 0.15 mM spermine, 0.75 mM spermidine 
 2) 1)のペレットに SHE緩衝液を3-4 mL 加え、ポッター型ホモジナイザーを用いて細胞を破砕します。(ストローク数: 10-20回程度)
 3) 破砕した細胞を 遠心(3,000 x g 、10分間) し、上清(粗細胞質画分)とペレット(粗核画分)に分けます。
 4) 粗核画分のペレットを1回洗浄(SHE緩衝液を加えて再懸濁、遠心し、上清を除去)した後、NE緩衝液(*b)を3-4 mL 加え、ポッター型ホモジナイザーか超音波破砕機を用いて再懸濁させ、氷上で10分間置いた後10,000 x g 以上で15分間 遠心し、上清を回収します。粗細胞質画分(3)の上清)も、同様に、10,000 x g 以上で15分間 遠心し、上清を回収します。


*b NE緩衝液組成 50 mM HEPES (pH7.5) / 0.35 M NaCl, 0.1 % NP-40, Protease Inhibitor cocktail
 5) 4)で回収した細胞エキストラクト(核、細胞質)に、それぞれRNase I (10 mg/mL)、DNase I  (10 mg/mL)、Benzonase (50 U/mL) を加え、タンパク質低吸着性フィルター(Φ0.45 μm)で濾過します。

(2)細胞エキストラクトと抗体ビーズのインキュベーション予め、1.5 mL チューブに抗体ビーズ(ここではSigma のANTI-FLAG-M2 agarose 50 uL)を分注しておき、1.で準備した細胞エキストラクト(核、細胞質)を それぞれ1-1.5 mL 加え、ローテーターを用いて、4 ℃で3-4 時間インキュベーションします。(オーバーナイトでのインキュベーションは避けます。)

(3)抗体ビーズの洗浄
 1) インキュベーション後、遠心(1,000 xg、2 分間)して 上清を除き、0.15 M NaCl 洗浄緩衝液(*c)を加え、洗浄(チューブを3-4 回インバートした後、遠心(1,000 xg、2 分間)し、上清を除去)します。
*c 0.15 M NaCl 洗浄緩衝液組成 50 mM HEPES (pH7.5) / 0.15 M NaCl, 0.1 % NP-40
 2) 0.3 M NaCl 洗浄緩衝液(*d)を加えて、1)と同様に洗浄します。
*d 0.3 M NaCl 洗浄緩衝液組成  50 mM HEPES (pH7.5) / 0.3 M NaCl, 0.1 % NP-40
 3) 0.3 M NaCl 洗浄緩衝液を加え、ローテーターを用いて4 ℃ で10 分間インキュベーションします。
 4) インキュベーション後、遠心(1,000 xg、2 分間)して 上清を除き、PBSを加えて、1)と同様に洗浄します。 
 5) 上清を除去後、高速遠心し、十分に上清を除きます。

(4)溶出、SDS-PAGE
 抗原ペプチド(ここではFLAGペプチド(500 ug/mL in HEPES buffer)を60 uL)を加え、室温で10 分間インキュベーション後、高速で遠心し、上清を回収します。抗体ビーズの混入を避けるため、回収した溶出液を、再度、高速遠心して上清を回収し、SDS-PAGEを行い、コントロールとの比較により、タンパク質X の相互作用タンパク質のバンドを確認します。

3 免疫沈降のコツ

<細胞エキストラクトの調整>

 ●細胞の破砕と分画
細胞や臓器の破砕用緩衝液は、等張で 膜を保護する組成のものを使用します。具体的なプロトコール(上記)で示したSHE緩衝液には、マイナスにチャージした膜表面を安定化し、核やミトコンドリアを保護する為に、ポリアミンが含まれています。また、微量にしか存在しない相互作用タンパク質を同定する為には、total cell lysate を用いるよりも、粗分画したエキストラクト(細胞質、核、ミトコンドリア画分など)を用いた方がクリアな結果が期待できます。
DNase、RNase の使用
RNA結合タンパク質(ribosomal protein、RNAスプライシング因子など)や、DNA結合タンパク質(Ku70、Ku80、DNA PKcs など)は、RNA やDNA の存在によって非特異的に抗体ビーズに吸着します。それを防ぐために、細胞エキストラクトの調製段階で、DNase、RNase を添加することをお勧めします。

 ●タンパク質低吸着性フィルターの使用
細胞エキストラクト調製の過程でミセル化した膜や、混在する細胞の破片も、非特異的に抗体ビーズに吸着し、免疫沈降に影響を及ぼすことから、それらを除去する為に、タンパク質低吸着性フィルター(≦Φ0.45 μm)による濾過をお勧めします。

<インキュベーション>
 ●インキュベーション時間
抗原と抗体の結合は早くて強い為、数時間のインキュベーションで充分結合します。非特異的な吸着を避けるために、インキュベーション時間は、長くても「4時間以内」にすることをお勧めします。
<抗体ビーズの洗浄>
塩、界面活性剤の使用
生理的に重要な「相互作用タンパク質」は、タンパク質同士が立体的に密着しています。その為、外界の溶媒の影響を受けにくく、0.6 M のNaCl を含む洗浄液で洗浄しても外れないことが多いので、非特異的に吸着しているタンパク質を洗い流すために、0.3-0.5 M NaCl、0.1-0.5 % 界面活性剤を含む洗浄液で十分洗浄することをお勧めします。

 ●緩衝液の変更
 塩や界面活性剤の組成だけではなく、緩衝液の変更によっても洗浄効果が期待できます。例えば、HEPESから リン酸緩衝液、Tris-HCl から リン酸緩衝液へ変更することで、洗浄効果が上がります。
<溶出 とSDS-PAGE>
 ●溶出液の濃度
液量を増やさずに、目的の相互作用タンパク質を十分に溶出させるために、溶出液の濃度(FLAGタグの場合、 FLAGペプチドの濃度)を、マニュアルに記載されている濃度よりも、少し高めにすることをお勧めします。
抗体ビーズ
溶出液(最終)中に抗体ビーズが混入しないよう、注意してください。

 ●SDS-PAGE
ケラチン汚染を極力防ぐため、用時調製(あるいは 質量分析用にストック)した サンプルバッファーの使用をお勧めします。


4 GSTプルダウン法

 免疫沈降ができる良い抗体が無くても比較的簡単に相互作用タンパク質が解析できる方法がGSTプルダウン法です。GSTリコンビナントタンパク質として全長ができなくとも、特定のドメインや特徴のある構造部分のGSTリコンビナントタンパク質ができれば十分解析ができます。この方法は驚くべき新しい相互作用タンパク質の発見に導きます。

 

(1)GSTとGSTリコンビナントタンパク質を発現させた大腸菌の抽出液をそれぞれ50mlのglutathione beadsと4℃で1時間インキュベーションし、0.15M NaCl、0.2%NP-40を含む50mM Tris-HCl( pH7.2)のwashing bufferで1回、1.2M NaClを含む50mM Tris-HCl( pH7.2)のwashing bufferで1回、最後にPBSでGlutathione beadsをwashする。

(2)細胞か臓器の抽出液を調整しGSTリコンビナントタンパク質を結合させたglutathione beadsと4℃で6~12時間インキュベーションする。glutathione beadsを0.15M NaCl、0.2%NP-40を含む50mM HEPES ( pH7.2)のwashing bufferで2回、PBSで1回washする。

(3)PBSを除いたglutathione beadsに500 mlの1.2M NaClを含む50mM

HEPES ( pH7.2)のextraction bufferで2回回収し,合わせた1mlのextractsをMW10,000 cut-offの限外遠心濃縮器を使い脱塩・濃縮を行い50mlまで濃縮する。このサンプルをSDS-PAGEで泳動・銀染色して結合タンパク質をMSで解析する。

図 欠損するとウエルナー早老症の原因となるWRN